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COFFEE BREAK
世界のコーヒー-World-
2018.04.18
グローバル+ローカル、台湾コーヒー文化の歩み。
グローバル+ローカル、台湾コーヒー文化の歩み。
食のクオリティーにうるさい台湾で、若い世代を中心にコーヒー・シーンにも大きな変容が起こっている。世界のトレンドを敏感に察知し取り入れる店がある一方で、コーヒー本来の味と役割に立ち返ろうとする動きも。そのエッセンスを台北で覗いてみよう。
Tzubi coffee ツビ・コーヒー
東京・原宿に喩えられるファッションと若者の街、忠孝敦化に2017年8月にオープンしたばかり。店名の「ツビ」は漢字で書くと「趣味」。しかし、日本語の趣味とはニュアンスが異なり、「面白味」という意味なのだそうだ。オーナーの林奐さんによると「日常に面白味を見つけてほしいという気持ちを込めました」とのこと。そう言われて店内を見回すと、壁面やショーケースを飾る雑貨にも、ドリンクの提供の仕方にも、メニューの中身にも、ちょっとした遊び心というかひねりが見受けられる。例えば、入り口付近でそそり立つシロクマの巨大フィギュアにドキリとする。あるいは、ラテのカップの下に敷かれた虎皮の形のコースターに思わず微笑む。そんな風に、店側の小さな「仕掛け」にまんまと引っかかっていくうち、客は日常の憂さという重い外套を脱いでいく。コーヒーは元々、気分転換と相性がいい。林さんの企みはいわばコーヒーの効用を増幅させるための装置なのだ。
コーヒー・メニューにも、"面白味"のフレーバー。
コーヒーは深煎りでミルクココアのような柔らかな味わいのものと、浅煎りでフルーティな風味のものの2種類を常備。メニューで特色が出ているのは、ラテにフルーツなどのフレーバーを加えたシリーズ。イチジク、アプリコット、イチゴ、パイナップル、チョコレートの各〝面白味〟が楽しめる(チョコレート・ラテは150TWD、他はすべて160TWD)。アイスコーヒーをトニックウォーターで割ったトニック・ブラック(140TWD)も人気。ウォーターメロン・ライム・スパークリング(140TWD)など発泡系ドリンクの注文が多いのは亜熱帯に属するこの街ならではか。
実はこの店、今年35歳になる林さんが手がける3店舗目。彼のような若きトレンドセッターが、コーヒーとカフェというツールで台北のカルチャー・シーンに新風を吹かせている。
Tzubi coffee
ツビ・コーヒー
顧客にリラックスしてもらう方法を追求した果てにオーナーがたどり着いたのは、ちょっとした遊び心をインテリアやコーヒーその他のメニューに配することだった。
■ https://www.facebook.com/tzubicoffee/
Fika Fika Cafe フィカ・フィカ・カフェ
市内北東部、テクノロジー関係の会社が多い陽光街にある。白木のカウンターと白と黒のストイックな内装。スタッフのコスチュームもモノトーンでクール。これはまさしく北欧デザインの世界。それもそのはず、ここは北欧のコーヒー競技大会でチャンピオンになった陳志煌さんが開いた店。店名はスウェーデン語で「大切な人とコーヒーを飲みながら一息つくこと=コーヒーブレイク」を意味するフィーカという言葉を重ねたものだ。マネジャーの邱如萱さんによると、土地柄、平日はエンジニアや営業マン、週末には家族連れの来店が多いとのこと。取材したのは平日の午後だったが、コーヒーカップを片手にラップトップの画面に見入るビジネスマンの姿が見られた一方で、ジム帰りの女性同士や身なりの良い年配カップルも。いずれも近くに暮らす生活意識・感度の高い人たちだという。
ストレート・コーヒーには、台湾産のコーヒー豆も。
コーヒーは自家焙煎。開店当初は北欧風に浅煎りにしていたが、台湾人の好みに合わせて、少し深煎りに軌道修正したとのこと。アメリカで開発された最新システム(カウンター下にスチームボイラーなどを収納することで、作業スペースがすっきり広くなっている)でドリップもエスプレッソ抽出も行われる。ストレート・コーヒーはホットとアイスの2通りでサービス。同じ豆、同じ方法でいれたコーヒーでも、口にする時の温度帯でまったくアロマが違うことに驚く。その日のコーヒーのラインアップは黒板に手書きで記される。エチオピア、ケニア、ブラジルなどの農園名に交じって「台湾百勝村」の名も。台湾中部にあるコーヒー農園で、ここの豆は浅煎りにするのが良いとされている。アイスキューブにしたエスプレッソに好みの量のスチーム・ミルクとシロップを加え、溶かしながら飲むキューブ・ラテ(250TWD)がスタッフの一押し。
Fika Fika Cafe
フィカ・フィカ・カフェ
北欧スタイルに惚れ込み、北欧で認められた焙煎の名手が開いたカフェ。アメリカの最新抽出システムを導入するなど、台湾のコーヒー・カルチャーをリードする存在だ。
■ https://www.facebook.com/FikaFikaCafe
Phoenix Roasteria フェニックス・ローステリア
イタリア製のヴィンテージ・エスプレッソ・マシーンがキラキラと輝くカウンター。店の奥の作業場には、いかにもよく働きそうな、真っ赤なドイツ製焙煎機がデンと鎮座する。周囲を取り囲むのは、世界各国からコーヒー豆を包んで旅してきた麻袋だ。それらは、馥郁たる香りの予感に満ちたアイコンたち。昨年10月にオープンしたばかりのニューフェイスだが、オーナー高揚凱さんにとっては2軒目の店だ。高さんは、15年ほど前からコーヒー修業を始め、今では国際コンペティションの審査員も務める実力派ロースター。彼の焙煎する豆は、台北市内だけでも40軒のコーヒーショップで使われている。また、高さんはとあるコーヒーショップ・チェーンの豆のクオリティ・チェックの仕事を任されている。
ロースターの個性ではなく、産地・農園の特色を出したい。
〝不死鳥〟を店名にした理由について、高さんは「火を制御することが焙煎にとって最も大切なこと。火に飛び込むことで再生するフェニックスのイメージがそれと重なると思って」と話す。彼が追求するのは、人(=ロースター)の個性ではなく、産地・農園の特色の出る焙煎をコーヒー豆に施すこと。店のスタッフと頻繁にカッピングを行っているのは、独善的でない、普遍的なおいしさを求めてのこと。若いスタッフの感想にも心を開いて耳を傾ける。「彼らの意見を取り入れて焙煎の加減を決めることもしばしばです」。2店舗のスタッフを一堂に集めて行うカッピングには、高さんの培ってきた経験と技術をきちんと若い世代に伝えるという意味合いもある。 常時7種類程度を用意しているシングル・オリジン・コーヒーには、挽きたての豆を入れた小さなグラスを添えて出す。豆と抽出液の両方で、産地・農園のキャラクターを存分に味わってもらうためだ。そんなスタイルにも、コーヒーの真髄を少しでも広めたいという高さんの思いが滲む。
Phoenix Roasteria
フェニックス・ローステリア
国際的なコーヒー大会の審査員も務める実力派ロースターが開いた店。コーヒーの真髄を広め、伝えたいというオーナーの気持ちが、店の姿勢となり、サービスとなって表れている。
■ https://www.facebook.com/PhoenixRoasteria/
Kopi Ibrik コピ・イブリック
店主の張光佑さんは多芸多才の人だ。国立台南大学で民族音楽学を、ベルギーのブリュッセル王立音楽院ではジャズ・ギターを修めた。「お仙」というペンネームで美食に関する情報を発信するグルメライターでもある。日本語を自在に操る。
そんな彼がコーヒーに夢中になったのは当然の成り行きだったのだろう。最初は自分で楽しむために焙煎を始めた。3年前、トルコのコーヒー・チャンピオンがバンコクで行ったワークショップにたまたま参加し、そこで飲んだコーヒーの味わいに衝撃を食らう。「それは現在知られているトルコ・コーヒーとはまったく別物の、モダン・トルコ・コーヒーと呼ぶべきものでした」と張さん。2016年4月に店を構え、今日に至る。
風雅の人がたどり着いた、トルコ・コーヒーという極致。
豆は浅めに煎り、従来のトルコ・コーヒー用(最細挽き)よりもやや粗めに挽く。長い柄のついたイブリックに挽いた豆と水を入れ、200度に熱した砂に半ば埋め込むようにして加熱。表面に泡が出る頃合いで熱砂から外し、カップに注ぐ。飲み方も重要だ。コーヒーの微粒子が沈殿するまで2分ほど待ち、表面に浮かんだフォームをカップの向こう側に吹き寄せてから啜る。飲んでみると、確かに従来の苦くて濃いトルコ・コーヒーとは異なり、デリケートで奥深い味わい。張さん曰く、実はこれこそが本来のトルコ・コーヒーなのだ。温故知新と言うべきか、破天荒と言うべきか、イノベーションの種は意外なところに潜んでいるものだ。
店内の壁に、さりげなく弦楽器が飾られている。レバノンのウート。興が乗ると、張さんが爪弾くことも。「最近のコーヒー・カルチャーは、みんなが専門家じゃないといけないような、人に緊張を強いる雰囲気がありますが、コーヒーは本来楽しむために飲むものでしょう」。張さんの言葉と弦の音は、風雅という言葉を思い起こさせる。
Kopi Ibrik
コピ・イブリック
人間的な魅力に満ちた店主がひとりで切り盛りする、ロースター兼トルコ・コーヒー店。本場トルコでもなかなか飲めなくなってしまった、本来のコーヒーの味わいとは?
■ https://www.facebook.com/TURKISHCOFFEETAIWAN/