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コーヒー産地の魅力を感じる体験型ツーリズム、ブラジルの「サンパウロ・コーヒールート」とは?

コーヒー産業は、19世紀末からサンパウロ州内陸で広まり、州内各地で獲れたコーヒー豆を集荷するために、サンパウロ市と内陸とを結ぶ複数の鉄道網が敷かれました。街の工業化が進み、今ではサンパウロは人口約1190万人を抱える南米最大の都市となっています。
そんなコーヒーを観光にさらに活かそうと、サンパウロ州政府は2025年4月にコーヒー生産地を巡る観光ルート「サンパウロ・コーヒールート(Rotas do Café de São Paulo)」という企画を発足しました。

今回は「サンパウロ・コーヒールート」の代表的な観光ルートにある3つの農園と、主要施設を紹介します。ぜひバーチャル・ツアーをお楽しみください!
「マンチケイラ・ヴルカニカ・パウリスタ」ルート(サンパウロ州北部〜東部)
ローマ教皇に献上したコーヒーを生産
ボア・ヴィスタ・ド・エンガノ農園
まずはサンパウロ州の北部〜東部にあるコーヒー生産地域「マンチケイラ・ヴルカニカ・パウリスタ(Mantiqueira Vulcânica Paulista)」ルートに位置する、カコンデ市郊外で、1916年からコーヒー生産を営むボア・ヴィスタ・ド・エンガノ農園を覗いてみましょう。

こちらの農園のコーヒー豆は、今年4月に他界したローマ教皇フランシスコと先代のベネディクト16世が、それぞれ2013年と2007年にブラジルを訪問した際におもてなしするコーヒーの豆に選ばれました。
経緯について5代目農場オーナーロベルタ・バジリさんは、
「ベネディクト16世教皇に仕えた調理責任者が、以前から私たちのコーヒーを好んでくれていたことがきっかけでした。その後フランシスコ教皇がブラジルを訪問した際にも再び選んでもらえてとてもうれしかったです」と語ってくれました。
「私にとってコーヒーはDNA!」と語るバジリさんは昨年「ブラジル・コーヒー焙煎大会」で準優勝し、今年8月にブラジルで行われ、日本からも2人の焙煎士が参加する「焙煎ブラジル・日本トーナメント」にも出場予定の注目の焙煎士です。

ボア・ヴィスタ・ド・エンガノ農園では、農園の見学や、焙煎、コーヒー抽出方法などのワークショプから、コーヒーテイスティングまでを体験できるほか、農園運営者との交流や質の高い農業・環境教育にも触れることができます。ローマ教皇が口にしたであろうコーヒーの豆を生産する農園を訪れることは、カトリック信者の多いブラジル人ならずとも土産話になりそうです。
「クエスタ、イタケリ、チエテ・パウリスタ」ルート(サンパウロ州中部)
サステイナブルな生産と歴史情緒が魅力
モンテ・アルト農場

続いては、サンパウロ州中部「クエスタ、イタケリ、チエテ・パウリスタ」ルートのドウラード市郊外に位置する、モンテ・アルト農場です。
こちらの農園の歴史は古く1813年に遡ります。農場に隣接する大邸宅は、当初はサトウキビを生産しながら、奥地探検隊バンデイランテスの基地として活用されていました。バンデイランテスとは17世紀中頃からサンパウロを拠点に、黄金の探索や先住民の奴隷狩りを行った武装集団です。1860年代から始まったコーヒー生産は、現在は85ヘクタールの農地で、約36万5千本の様々な亜種のアラビカ種を栽培し、生豆と国内向けの焙煎豆「カフェ・エレナ」を生産しています。敷地内の水源で灌漑を行い、ソーラーパネルで電力を補うなどサステイナブルなコーヒー生産にも積極的に取り組んでいます。
訪問希望者は事前予約で、歴史ある邸宅、コーヒーの生産、乾燥、焙煎の行程を、案内を受けながら見て歩くことができます。
「アルタ・パウリスタ」ルート(サンパウロ州西部)
100年以上の歴史を持つ伝統農園
サンタ・クララ農園

サンタ・クララ農園(Sítio Santa Clara)は、サンパウロ州西部「アルタ・パウリスタ」ルートに位置するガルサ市で、2ヘクタールの小規模生産を営んでいます。ガルサは、2022年11月にブラジル産業財産庁(INPI)によって高級コーヒー豆の産地として登録されたことで、今後その名がさらに知れわたりそうです。

コーヒーの栽培、焙煎、販売までをほとんど一人でこなす農園オーナーのジアスさんは、コーヒーツーリズム(農園観光)の推進も行い、10ヘクタールの自らの所有地にトレッキングコースを敷き、ガイドツアーも行っています。
「トレッキングに訪れる方々にもコーヒー抽出のデモンストレーションを行い、うちの農園のコーヒー豆の味を楽しんでもらっています。コーヒーは人と人を結びつけてくれる飲み物であり、カルチャーなんです。現在、コーヒー畑の脇に宿泊施設を建てる計画を進めています。完成すればお客様にコーヒーの手摘みを体験してもらうコースを開きますのでぜひ遊びに来て下さい」
とジアスさんはコーヒーの魅力をさまざまなかたちで提案しています。
ブラジル最大の都市 サンパウロ
世界最大の都市コーヒー農園
サンパウロ生物研究所

ビルに囲まれた都会にあるサンパウロ生物研究所(Instituto Biológico)にも行ってみましょう。この実験農場は、喧騒のなかでひとときの安らぎを与えてくれます。1927年、コーヒーノキの実を食べつくす害虫により甚大な被害にあったコーヒー農園主らの要望によって、害虫駆除の研究のため州政府が設立した施設になります。
アールデコ調建築による研究所は、裏手に約1万平方メートルのコーヒー農地があり、都市の中にあるコーヒー農園としては世界最大なのだそうです。
農場ではカトゥアイ、ブルボン、ムンド・ノーボなど複数のアラビカ種亜種のコーヒーノキが栽培されています。アラビカ種は自家受粉が可能ですが、ミツバチなどの昆虫による受粉も行われます。都会のただ中でも受粉媒介者として8種のハチが確認できているそうです。
2006年から毎年4、5月の収穫時期にコーヒー豆の収穫と、焙煎豆のテイスティングが無料で楽しめるイベント「収穫の味(Sabor da Colheita)」を開催しています。

ブラジルコーヒーの歴史的輸出拠点「サントス港」
コーヒー景気の栄華を感じる
サントスコーヒー博物館

ブラジルといえば、「サントス」、という名称を聞いたことがあるかもしれません。ブラジルのコーヒー豆のほとんどを出荷する、サンパウロ州沿岸の「サントス港」。世界最大のコーヒー豆積出港で、サンパウロと同様にコーヒー景気で潤った街です。サントスの中心街に建つサントスコーヒー博物館では、その繁栄の象徴を肌で感じることができます。
1922年に建設された旧「サントス・コーヒー穀物取引所(Bolsa Oficial de Café)」の建物を活用し、1998年にサントスコーヒー博物館として開館しました。コーヒーがブラジルの政治・経済・文化に果たした役割を、映像・パネル・模型・文書などを通じて体験することができます。コーヒー豆の値付けが行われた競売会場の厳かな雰囲気は、街の観光資源の一つとなっています。

また、サントスコーヒー博物館は、中心街を走る路面電車と提携し、毎週木・金の午後に走行中の路面電車車内で高級コーヒーをサービスする「コーヒー電車」も運行しています。
サンパウロからリムジンバスで1時間ほどの港町サントスは、サンパウロ在住者にとって小旅行の目的地として人気です。
収穫、精製、焙煎、そして一杯のカップまで。ブラジルを訪れるなら、生産者と語りあいながら、五感で楽しむ"コーヒーの旅"へ出かけてみませんか?「コーヒールート」のオンラインガイドはこちらからアクセスできます。
概要:「サンパウロ・コーヒールート」
サンパウロ州内に数あるコーヒー農園の中から、観光的な魅力の備わる53個所の農園や施設を生産エリア別に紹介したプロジェクト。イグアスの滝やリオデジャネイロのキリスト像のような世界的に知られる観光資源が少ないサンパウロ州にあって、コーヒー生産を州の観光振興に活かすために発足された企画です。州政府および関係者らはこの企画を将来的にユネスコ世界遺産に申請する計画もあるようです。