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COFFEE BREAK
世界のコーヒー-World-
コンディションを整えて力仕事もこなす女性焙煎士&バリスタコンビのカフェ パリから
コンディションを整えて、力仕事もこなす。女性焙煎士&バリスタコンビのカフェ。
Vol.113 フランス・パリから
新型コロナウィルスの感染拡大に際し、全国で2ヶ月間の外出制限が行われたフランス。カフェやレストランは休業を余儀無くされ、6月18日からようやく社会的間隔やマスク着用などの条件つきでの全面再開となった。業界全体が大きな痛手を負ったが、初夏の陽気に味方され、客足は順調に戻りつつある。
パリ郊外ル・ペルー・シュル・マルヌにある焙煎所カフェ「グラム・グラム」も、地元客に支えられて再開の道を進む店の一つ。自然光の差し込む気持ちの良い店内には、老若男女様々な客がやってくる。コーヒー豆一袋を買うにもじっくりを時間をかけて店主と話し込み、店にいること自体を楽しんでいる様子が伝わる。「それがうちのスタイルなんです。お客さんの話をしっかり聞いて好みを見出し、その日の気分に寄り添いながら一緒に選ぶ。時にはコーヒーの木まで遡って話すんですよ!」
そう語るのはレスリー・ゴンタールさん。コロンビア系エクアドル人のヴェロニカ・プロセルさんと共同オーナーとなり、2017年に店をオープンした。ともにバリスタ資格を持ち、豆の買い付けには自ら出向いて生産地を駆け回る。ブラインドティスティングでの選別眼にはレストランシェフの信頼も篤い、職人肌の焙煎士だ。豆はアフリカ、中南米の産地を中心に揃え、バランス重視のミディアムローストが身上。まろやかさと心地よい苦味を心がけている。すべての豆をイートイン対応しており、購入前に味を確認できるのも好評だ。丁寧な接客と確かな焙煎術で、瞬く間に顧客を摑んだ。
フランスは男女平等の意識が強い国だが、コーヒー業界ではまだまだ、事業主は男性が多い。スター焙煎士として取り上げられるのも男性が多く、「グラム・グラム」のような女性オーナーの店は少数派だ。それはなぜなのだろう?「女性だから、と不利な思いをしたことはないですが......」と前置きしつつ、レスリーさんは続けた。
「焙煎は肉体的・精神的にハードな仕事です。でもそれが'当たり前'だから、疑問視したり改善しようとも思わない。そんな面が、業界全体としてあるかもしれません」
たとえば、と彼女が指差したのは、生産地から届いた生豆の麻袋。スタンダードサイズは70kgの一択で、その運搬は男性であっても一苦労だ。これを日常的に扱える体力があるかどうかが、暗黙のうちに、焙煎士としてやっていくための条件になっているのでは、と。「南米の生産地には女性の働き手も多いですし、コーヒーをめぐる肉体的負担はもっと、考えられてもいい点ですよね」
高熱と向き合う焙煎や1日数十回とエスプレッソホルダーを振るう動きなど、焙煎所カフェの仕事には他にも、身体を酷使する作業が'当たり前'にある。レスリーさん自身、体のコンディションを維持できるよう、日々筋トレを欠かさず、月に2回はマッサージにも行っている。そしてこの仕事を目指す若手には、こんなアドバイスをするそうだ。
「心と体のバランスが取ること。それをしっかり意識していないと、できない仕事だから」
肉体的な負担がスタンダートとなってしまっている焙煎士の職だが、ぜひ女性たちにも臆せずに目指して欲しい。そんな思いから、レスリーさんたちは研修やアトリエの開催にも力を入れている。焙煎士は「人を好きな人のための仕事」だと、信じているからだ。
「コーヒーを介して、人と人を繋げるのが私たちの仕事です。日本の女性たちには、茶道と同じように考えてもらえたらいいのではないでしょうか?」
それを仕事にしていくために重要なのは、「リスペクトを勝ち得ること」とレスリーさん。コーヒーのプロとして「この人に耳を傾ける価値がある」と、相手に思ってもらうために。その手段として、コンクールやコンテストに参加するのも一案だ。
「私たちは去年、県の「若手職人賞」にエントリーして受賞したのですが、それ以来お客さんの反応が確かに変わりましたよ。もう1点大切なのは、パートナーと一緒に起業すること。オーナーとして事業を立ち上げるのはタフなことで、困難が沢山やってきます。一人でやろうとせず、支え合える環境は必須です」
多様性の尊重は、SDGsの重要なテーマでもある。もし男女どちらかの性に偏っている環境があるなら、それはなぜなのか。その偏りの原因が業界の'当たり前'として、見えなくなってはいないだろうか。コーヒーの喜びが性別を問わないものであるからこそ、それを与える側にも、性差の壁がないかを考えていきたい。