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COFFEE BREAK
文化-Culture-
コーヒー焙煎士、パリの流儀 Vol.7
焙煎中は、無心でマシンと融合する。
「焙煎したての豆を見ると、両手でかき抱きたくなるほど嬉しい」歴史を誇る焙煎カフェの主人は、37年のキャリアを経てなお熱く語る。美食の都で活躍する、個性豊かな仕事人。その流儀に迫る連載、最終回。
変化著しいパリのコーヒー業界で、幅広い世代から信頼を寄せられる人物がいる。自家焙煎カフェ「ヴェルレ」の主人エリック・デュショソワだ。
フランス北部の焙煎一家に生まれ、初焙煎は16歳の時。25歳で独立し、1992年の全国焙煎所ガイドでは2位に選ばれた。その後パリで「ヴェルレ」を継承。名実共に業界を代表する存在だ。
「私が2位になった時、1位だったのがヴェルレです。当時の主人が引退を考えていると知った時、私が継ぐしかないと思いましたね。話が決まるまで、3年かかりましたよ」
強く継承を望んだ理由は、二つ。一つは前店主のピエール・ヴェルレが、フランスにおけるピュアオリジンコーヒーの先駆者だったこと。もう一つは、老舗が誇る客層だ。
「ヴェルレのお客は真のコーヒー愛好家。高品質の豆を、価値を理解して買ってくれます。私の願う仕事をするには、その客層が必要だったんです」
焙煎のラスト5分は、頭の中が真っ白。
デュショソワの願う「仕事」は単純明快だ。毎日最上の豆を、最上のバランスで焙煎すること。しかしそれは誰にでもできることではないと彼は言う。ましてコンピューター任せには。
「焙煎とは豆のアロマを最大限に引き出すこと。簡単なようですが、それには独特の感受性が必要なんです。豆ごとに変わる特性を熟知し、日ごとに変わる状態や反応を察知しながら、一番いい形にまとめるのですから」
焙煎作業の間の心境を問うと、その答えは「何も考えていない」。
「特にラスト5分、ファーストクラックを聞いた後は、ただ焙煎機と融合しているような気持ちになります。集中しているんですね。豆の色、香り、音に」
どんな豆でもセカンドクラックまでは焙かない。その手前、アロマが最も開花するただ1点の均整を目指す。そうして焙煎された豆は、「僧衣色」という美しい褐色に仕上がっている。
「焙煎機から出してこの色が目に入ると、豆を両手でかき抱きたくなります。もうただ嬉しくて。実際にはやりませんよ。240度の高温ですから!」
そう笑う表情は、子どものように無邪気だ。37年のキャリアを経てなお、毎日の作業にこれだけ没頭できること、喜びを得られること。寄せられる信頼の意味が、彼を見ているとよく分かる。焙煎士という職業の豊かさを、彼は確かに体現しているのだ。
カメラ
愛用のライカSLは、20年以上続ける生産地巡りの必携品。生産地で見てきた景色を撮影し、そのアルバムを店に置いている。「写真もまた、お客さんにコーヒーの夢を伝える手段なんだ」
エスプレッソカップ
18年春の新装オープンにあたり、カップも新調。「うちはコーヒーショップじゃない。パリのコーヒー店、という気持ちを込めて」19世紀のレリーフ、昔ながらのアイボリー陶器を選んだ。
ド・ベロワのコーヒーポット
18世紀の枢機卿ジャン=バティスト・ド・ベロワが考案した、陶製のフィルターポットを再現。店で使っている。「紙の味がつかない分、脂も出る。中煎りを粗挽きしていれるのがいいね」
ヴェルレ
1880年創業、パリの中心地1区で直輸入・自家焙煎のコーヒーと紅茶を商う。2018年に店舗を拡大・改装オープンした。
256 rue Saint-Honoré 75001 Paris
http://www.verlet.fr